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天然の化合物を合成し
創薬をめざす

20世紀後半から21世紀にかけて医療はめざましく進歩した。その一翼を担っているのが薬学だ。かつては治すことが難しかった病気の多くが薬で治せるようになった。また、私たちは日常的にも風邪薬や胃腸薬などのお世話になっている。しかし、そうした薬を開発するために、どのような研究が行われているのかはあまり知られていない。そこで、東京薬科大学の樹林千尋先生に、創薬に向けた研究について教えていただくことにした。
薬学の研究分野は、大きく分けると医療薬学と創薬がある。先生は長年、創薬の研究に携わってこられたが、主たる研究対象は天然物だといわれる。なぜ天然物の研究なのか、そこから教えていただくことにしよう。
「天然物は薬の宝庫といっても過言ではありません。わかりやすい例をあげると、モルヒネという非常に有効な鎮痛薬がありますが、これはケシから取り出された化合物です。それから、抗生物質はほぼ全部といっていいくらい微生物の発酵によってつくり出したものです。このように、現在の薬は天然由来のものが非常に多いのです。そのため私の研究室では、天然物から得られる有効な化合物の合成を最大のテーマにしています」
天然資源の枯渇を防ぎ
毒性や副作用を除く
天然に存在するものならば、それを使えばいいのでは、という素朴な疑問が浮かぶが、事はそう簡単ではないようだ。
「天然物から有効成分を抽出する場合もありますが、すべてがそういうわけにはいきません。まず、天然物に有効成分が含まれていても、それはごく微量だという問題があります。十分な量を得るために大量に採取すると、環境破壊や種の絶滅につながりかねません。天然界からそのまま薬を入手する方法には、自ずと限界があるのです。そこで、人工的に合成することが必要になってきます」
また、天然物の成分は、そのままでは薬として使えないことも多いという。
「天然から得られる有効成分は、ほとんどの場合、毒性を持っていたり、副作用をもたらします。そこで、生理的な活性だけは残して、毒性や副作用をなくすような化学構造に改善しないと、薬としては使えません。それには、まず化合物の合成法を確立して、その後、不都合な部分に手を加えて理想的な薬に近づけていくことが大事になります」
では、化合物の合成は、どのように進めていくのだろうか。
「まず、合成する目的物質を特定しますが、何を選ぶかが重要です。最初の選択が適切でないと、研究に費やした年月がムダになる可能性もあるのです。選択の基準は、まず活性を持っていること、つまり病気の治療に効果が期待できることがあります。それから、化学構造に特徴があり、しかも複雑で、学術的にみても研究する価値があることも大事です」
天然物から化合物を抽出し構造を決定する研究は、生薬など専門分野の研究者が行っていて次々に成果が発表される。そうした情報をいち早くキャッチし、ターゲットとする化合物を決めるのだという。そして、いよいよ合成にとりかかる。
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